アンリ復帰がもたらす宮市への影響 (1/2) レジェンドの帰還でアーセナルはどう変わるのか

「自ら脚本を書く天才アンリ」
 1月9日、アーセナルで2度目のデビューを果たし、FAカップ3回戦でリーズ・ユナイテッドを相手に決勝点を決めたティエリ・アンリに対し、『ガーディアン』紙がつけた見出しである。

 ニューヨーク・レッドブルズからの2カ月ローンとなるアンリの電撃復帰は現地時間6日、リーズ戦の選手登録締め切り30分前に発表された。それから3日後のリーズ戦で、アンリは早くも結果を残す。0−0で迎えた68分からピッチに送り出されると、約5年ぶりとなるガナーズアーセナルの愛称)での通算227ゴール目を決めるまで、10分しかかからなかった。アレクサンドレ・ソングのパスを完ぺきなファーストタッチで受けると、右足インサイドでボールをファーサイドに流し込む。ネットが揺れ、殊勲の男はアーセン・ベンゲル監督と抱擁を交わした。

 アーセナル・サポーターならずとも、10年前の出来事かと見間違うような映像だったが、そこには全盛期よりウエスト周りがやや太くなり、顔も見慣れないあごひげにびっしり覆われた“今のアンリ”がいた。背番号もおなじみの14ではなく12だったが、軽やかなボールタッチとフィニッシュは紛れもなく往年のそれだった。ベンゲルは試合後、「彼はすでに伝説だが、このゴールで物語をまた書き加えた。夢のようだ」と愛弟子をたたえた。

■若手はアンリの影響力を絶賛

 レジェンドの復帰というギャンブルに打って出たベンゲルの思惑はどこにあったのか。現在、ジェルビーニョマルアン・シャマフの2選手をアフリカ・ネーションズカップ出場で欠いているアーセナルは、冬の移籍マーケットでFWの獲得が必要とされていた。
『インデペンデント』紙のジェイミー・サンダーソン記者はアンリ獲得について、「アーセナルは少額のレンタル料と週給9万ポンド(約1058万円)というアンリの給料を支払うだけ。ユニホームの販売や観客動員数の増加が見込めることからそれも相殺できる」という財政的なメリットがあり、さらにうわさされたルーカス・ポドルスキなどを獲得するよりも「シーズン途中で外国人を新たに加え、クラブに適応させる手間とリスクがない」点も重要だったと記事をつづっている。これらの点は、ポール・スコールズに現役引退を撤回させたマンチェスター・ユナイテッドの判断にも共通するところだろう。

 さらに、「アンリが影響力を発揮しないことを望むが、そうはならないだろうね」と嘆く宿敵トッテナムの指揮官ハリー・レドナップは別の見解を語る。「彼のような選手の習慣を見るだけでもお手本になる。若手選手は、どんなコーチから学ぶよりも多くのことを彼から学ぶことができる」と、アンリの経験やプロ意識がチームにもたらす好影響を予想する。実際、昨年中からアーセナルの練習に参加していたアンリは若手を虜にした。アーロン・ラムジーが「彼は勝者であり、多くのアドバイスを提供してくれる。僕らが学ぶにはうってつけだよ」と語れば、キーラン・ギブスは「彼の貢献はピッチだけではない。彼の個性がドレッシングルームを高揚させているんだ」とその影響力を絶賛した。アンリ自身も、「みんなに話しかけて勝利とは何かを教えたい」と意気込んでいる。